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秋田地方裁判所 昭和27年(行)20号 判決

原告 社会福祉法人偕行塾

被告 秋田県農業委員会・秋田県知事

一、主  文

被告秋田県農業委員会がぬ第一八一号東山追加地区未墾地買収計画(昭和二十四年二月十日公告)を以て別紙目録記載の(四)(七)(八)の各土地につき樹立した買収計画を取消す。

被告秋田県知事が昭和二十七年六月二十八日附でなした別紙目録記載の(一)(四)(七)(八)の各土地につき右買収計画を存続させる旨の裁決は取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告秋田県農業委員会がぬ第一八一号東山追加地区未墾地買収計画(昭和二十四年二月十日公告)を以て別紙目録記載(二)乃至(八)の各土地につき樹立した買収計画を取消す。被告秋田県知事が昭和二十七年六月二十八日附でなした別紙目録記載の土地につき右買収計画を存続させる旨の裁決を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として、

第一、被告委員会は、別紙目録記載の土地を含む原告所有の土地三十筆について、ぬ第一八一号東山追加地区未墾地買収計画を以て買収計画を樹立し、昭和二十四年二月十日その公告をした。

そこで原告は同月二十三日被告委員会に異議の申立をしたところ、被告委員会は、同年六月二日、右三十筆の土地のうち別紙目録記載(一)の土地を含む十四筆(但し同目録記載の(二)乃至(八)は含まない。)については異議を認容し、右買収計画より除外するも、その余の十六筆(同目録記載の(二)乃至(八)を含む)については異議を棄却する旨を決定し、該決定書は同年八月二日、原告に送達されたので原告は更に同月八日、右棄却された十六筆の土地につき被告知事に訴願したところ、被告知事は、昭和二十七年六月二十八日、右十六筆の土地のうち別紙目録記載の(二)乃至(八)以外の土地については訴願を認容し、右買収計画から除外するも別紙目録記載の(二)乃至(八)の土地並に前示異議決定で認容され従つて原告が訴願しない同目録記載の(一)の土地については買収計画を存続させる旨を裁決し、該裁決書は、同年八月八日、原告に送達された。

第二、然しながら被告委員会のした右買収計画及び被告知事のした訴願裁決は次の理由により違法として取消さるべきものである。

即ち

(イ)被告知事のした右裁決のうち別紙目録記載の(一)の土地につきなした処分は前示のように被告委員会の決定によつて買収計画から除外されたので原告は訴願しなかつたものであるから右は不告不理の原則に反する。

(ロ)別紙目録の土地は急傾斜地が多く、開墾不適地である。

(ハ)別紙目録記載の土地は原告の基本財産の一部であつて、原告はこれ等財産を一般生活困窮者に開放して農耕、牧畜、林業を経営し以て同人等の福利厚生をはかる目的を有する社会福祉法人であるが、現在同目録の土地は原告の放牧地、採草地、農耕地、植林地として使用されており、而もこれが原告事業の主体をなすものであるからこれなくては原告事業の遂行が不可能となる。このような土地は買収すべきでない。

(ニ)前示ぬ第一八一号東山追加地区未墾地買収計画は当初十一町三反七畝五歩の面積を有する三十筆の土地につきなされ、これが原告の異議申立及び訴願により四町歩未満の別紙目録の土地に縮少されるに至つたのであつて、仮りに別紙目録記載の土地の一部が地形上開墾適地だとしても鑑定人渡部厳の鑑定の結果によるも開墾適地は同目録記載(一)(二)(三)(五)(六)の土地に過ぎず、しかも右(一)は既に異議決定で計画を取消されているのであるから爾余の部分は僅か二町歩未満の二地域に分断された猫額の地域に過ぎない。従つて右当初の買収の目的に照せばこのような小地域を買収する必要性は消滅したものというべきであるのみならず右土地は点在していて純入植に不適であることは勿論のこと地元部落からは遠距離にあり、且つ開墾適地とはいえ肥料を多量に施用し土地改良をしなければならない土地であることは右渡部厳鑑定人の鑑定の結果によるも明かであるから地味と地理的状況から考えて増反入植も不適当というべきである。

又仮りに増反入植が可能だとしてもこのような小地域は僅か二、三人に配分しうるにすぎないのであるから、二、三人の個人のために原告事業の基本財産たる土地を買収するが如きは本末軽重を考えない処置というべきであつて、農地法の精神からみても買収すべきものでない。

以上の理由により被告委員会のした前示買収計画は違法であり、被告知事のした前記裁決も亦違法であるから、その取消を求めるため本訴に及んだと述べた(立証省略)。

被告等指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中、第一の事実は認める。

第二の事実中、

(イ)の事実はこれを認めるが、不告不理の原則は適用がないから違法ということはできない。

(ロ)の事実は否認する。別紙目録の土地は農林次官通達「開拓適地選定基準」に照らし傾斜土性等一、二級の開墾適地である。渡部厳鑑定人の鑑定によれば、別紙目録(四)(七)の土地は土性、礫の点では一級地でありながら傾斜度に於て四級地とみられたため、開墾不適地と判断されているが、仮りに別紙目録の土地のうち開墾不適地があるとするも、右のような一団をなしている地域の一部に開墾不適地が含まれることはやむを得ないことであつてこのような開墾不適地は農業用附帯地として利用されるものであるから現行農地法第四十四条及び開拓適地選定基準第十三にも買収することができる旨を規定している。又別紙目録(八)の土地は入植者が現に開墾している畑地の隣接地である関係から右入植者の農業用附帯地として買収計画されたものである。

(ハ)の事実中、原告が原告主張のような目的を有する社会福祉法人であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(ニ)の原告主張事実は争う。別紙目録の土地は増反用地として買収するのであるから、面積の大小及び一団地をなしているや否やということは重要な事柄ではない。しかも別紙目録の土地の実測面積は八町歩もあつて、東山追加地区内には尚買収されている他の土地もあり、これらは地元部落より約五百米の至近距離でもあるため該部落民の増反用としては最適の条件を具備しているうえに、該部落の農業形態は極めて零細であるため該部落に於ける耕地の拡張は極めて必要であると共に、該部落民の開拓に対する意欲も熱烈である。これに対し、原告の寄附行為によれば「塾生をして塾に所属する田、畑、山林、原野等を使用せしめ農耕牧畜の業を習得せしめる。」とあるも財産特に土地等の譲渡については明確な規定を欠いているから、原告の右寄附行為の目的事業はあらたに小作人を造成するようなものであつて、農地法による自作農創設の根本趣旨に反するものといわねばならない。

以上右買収計画及び裁決には何等の違法もないから原告の本訴請求は失当であると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告主張の第一の事実、すなわち被告委員会が、ぬ第一八一号東山追加地区未墾地買収計画を以て原告所有の別紙目録記載の八筆の土地につき原告所有の他の土地二十二筆と共に(合計三十筆)買収計画を樹立し、昭和二十四年二月十日その公告をしたので、これに対し原告が同月二十三日被告委員会に異議申立をしたところ、被告委員会は同年六月二日右三十筆の土地のうち別紙目録記載(一)の土地を含む十四筆については異議を認容し右買収計画より除外するもその余の十六筆(別紙目録記載(二)乃至(八)を含む)については異議を棄却する旨を決定し、該決定書は同年八月二日原告に送達されたこと、そこで原告は同月八日右棄却された十六筆の部分につき被告知事に訴願をしたところ、被告知事は昭和二十七年六月二十八日右十六筆の土地のうち別紙目録記載の(二)乃至(八)以外の土地については訴願を認容し、右買収計画から除外するも別紙目録記載の(二)乃至(八)の土地並に前示異議決定で認容され従つて原告が訴願しない同目録記載の(一)の土地については右買収計画を存続させる旨の裁決をし、該裁決書が同年八月二十八日原告に送達されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

よつて第二の事実につき順次判断する。

(イ)別紙目録記載(一)の土地に対する被告知事の裁決が不告不理の原則に反し違法であるとの主張について。

右買収計画に対する原告の異議に対し被告委員会が別紙目録記載の(一)の土地につき、これを認容して右買収計画から除外する決定をしたこと、原告は右に対し訴願しないのに被告知事が前示裁決において該土地を再び買収計画に組入れる旨の裁決をしたことは前示のように当事者間に争いがない。よつて右の事実が違法であるか否かについて判断するに、一般に訴願裁決庁が原処分行政庁の処分を不服とする訴願につき裁決をなすにあたつては、訴願裁決庁が原処分行政庁に対し一般監督権としての代執行権を有する上級監督行政庁である場合はその監督権の作用として訴願人の申立に拘らず訴願人の不利益に変更しうるも、訴願裁決庁が原処分行政庁に対し一般監督権としての代執行権を有しない場合には救済制度の趣旨に鑑み不告不理の原則の適用があつて、訴願人の不利益に変更することは許されないものと解すべきところ、自作農創設特別措置法第四十七条第三項、農業委員会法第四十八条第一、第三項の各条規に照らせば被告知事は被告委員会に対し、一般監督権としての代執行権を有しないとするを相当と考える。そうだとすると被告知事がなした右土地に対する裁決は爾余の点につき判断をなす迄もなく違法として取消しを免れない。

よつて爾余の土地、すなわち別紙目録記載(二)乃至(八)の土地に対し次の(ロ)(ハ)(ニ)の点につき判断する。

(ロ)本件土地は急傾斜地多く開墾に不適であるとの主張について。

成立に争いのない甲第五号証、鑑定人渡部厳の鑑定及び検証の各結果を綜合すれば、別紙目録記載の(四)(七)(八)の各土地は傾斜度が強く開墾に適しないこと爾余の同目録記載の(二)(三)(五)(六)の土地は地形地味共に開墾に適することが認められる。

右の認定を左右するに足る証拠はない。

被告等は仮りに右(四)(七)(八)の各土地が開墾不適地とするも、該部分は前示東山追加地区未墾地買収地域の小部分であつて広大な買収地域内に右の如き小部分の開墾不適地が包含されるのはやむを得ないことであつて、この様な開墾不適地は農業用附帯地として利用されるものである。特に(八)の土地は、入植者が現に開墾している畑地の隣地である関係から右入植者の農業用附帯地として買収するものであると主張するのであるが、証人高橋君夫の証言によると、右(四)(七)の土地は前示東山地区に属し当初は純入植の為買収しようとしたのであるが、買収地域減少の為増反入植に変更したことを認められる。

この事実と検証の結果とを合せ考えると、右(四)(七)の土地を農業用附帯地として買収する必要性は極めて乏しいこと、右両土地の面積が相当の反別を有すること明かであるから右両地を開墾目的以外のために買収することは違法であるといわざるを得ない。又右採用の証拠によると右(八)の土地は該土地の隣地に入植した訴外高橋君夫の開墾地に松根が侵入し耕作に支障あるけれども積極的に同人の営農上必要なものとは認められない(松根の侵入防止は堀を構築することにより防止し得るであろうから)から、該土地を農業用附帯地として買収することは違法であつて許されないものといわなければならない。

されば右(四)(七)(八)の土地については爾余の点につき判断する迄もなく未墾地買収することは違法であるといわなければならない。

よつて爾余の土地、すなわち別紙目録記載の(二)(三)(五)(六)の土地に対し次の(ハ)、(ニ)の点について判断する。

(ハ)本件土地の買収は原告の事業遂行に重大な支障を来すとの主張について。

原告が基本財産として土地を所有し、これを一般生活困窮者に開放して、農耕、牧畜、林業を経営し、以て同人等の福利厚生をはかる目的を有する社会福祉法人であることは当事者間に争いがなく成立に争いのない甲第三号証、証人鈴木旻(一部)及び原告代表者本人の各供述並びに検証の結果によれば、原告主張のように別紙目録の土地が現在まで農耕又は牧畜に利用されてきた事実はないが、原告事業内容の一部門として原告が緬羊二百頭を購入する計画を立て、この飼育地として御岳森山林四反歩の土地を第一牧場に、別紙目録記載の(一)乃至(七)の土地を第二牧場に各予定していたところ本件買収計画のためこの事業計画が一時中止されている状況にあることが認められるけれども、右の事実によれば別紙目録の土地が現に使用されているというわけでもないし、又緬羊牧畜事業がこの土地の気候その他の条件に適することについての立証もないから、右土地が原告の事業遂行に必須のものと速断し難い。のみならず証人鈴木旻の供述(一部)によれば、原告は別紙目録の土地及び買収となつた小野地区の地域を除いても他に尚実測二百町位の広大な山林原野等を有していることが認められるから、別紙目録記載の(二)(三)(五)(六)の土地が買収されたとしても、このために原告事業の運営に重大な支障をきたすものとは認められない。右認定の趣旨に反する証人鈴木旻の証言部分は採用し得ないし他に右認定を左右するに足る証拠はない。よつて原告のこの点の主張は理由がない。

よつてすすんで右土地に対する次の(ニ)の点につき判断する。

(ニ)本件土地の買収はその必要性及び正当性を欠くとの主張について。

別紙目録記載の(二)(三)(五)(六)の土地が増反入植の為の買収で純入植の為買収するものでないことは前示(ロ)の項において認定したとおりであるから、純入植を前提とする原告の主張部分は理由がない。又前示高橋君夫証人の証言によれば右土地に隣接せる横堀部落の農業形態は極めて零細で該部落民の右土地に対する開拓意欲が熱烈であることが認められるから、たとえ当初の買収計画より減少し右三筆になつたとしてもこれを以て増反入植の為の買収がその必要性消滅したということはできないし、検証の結果によれば右四筆の土地は集合していて地元部落より通つて耕作することができない程遠距離でないことが認められるから増反入植の為の買収は正当であつて、これを買収することにより原告の事業経営に影響ありとしてもその影響は、前示(ハ)の項において認定したとおりであるから、右土地を買収することを以て自作農創設の目的を逸脱し農地法の精神に反した違法のものということはできない。

よつて原告のこの点の主張も採用しない。

以上要するに別紙目録記載の(四)(七)(八)の土地に対し樹立した被告委員会の前示未墾地買収計画は違法であり、従つてこれを維持した被告知事の前示訴願裁決も亦違法であり、又同目録記載の(一)の土地に対する裁決は訴願しないのに裁決した違法がある。けれども爾余の部分については被告委員会のした右買収計画並にこれを維持した被告知事の訴願裁決は違法ということを得ない。

よつて原告の本訴請求中、被告委員会の樹立した別紙目録記載の(四)(七)(八)の土地に対する未墾地買収計画及び、被告知事のなした同目録(一)(四)(七)(八)の土地に対する裁決の各取消しを求める範囲において正当として認容すべきも、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小島彌作 安岡満彦 駿河哲男)

(目録省略)

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